配当金の確定申告 手間を最小限にするシンプルガイド
なぜ配当金投資で確定申告を考える必要があるのか
配当金投資は、定期的なキャッシュフローを得る魅力的な方法です。多くの国内上場株式やJ-REITなどの配当金は、特定口座(源泉徴収あり)を利用していれば、証券会社が税金を計算・徴収してくれるため、原則として確定申告は不要で手続きが完結します。
しかし、特定口座を利用していない場合や、複数の証券会社で取引している場合、あるいは特定口座を利用していても、税金面で有利になる選択(例: 総合課税や申告分離課税の選択、配当控除の適用など)をするためには、確定申告が必要になるケースがあります。
確定申告と聞くと手続きが複雑で手間がかかるイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ポイントを押さえ、便利な制度やツールを活用すれば、その手間を最小限に抑えることができます。このガイドでは、配当金に関する確定申告が必要になる主なケースと、手続きをシンプルに進めるための具体的なステップをご紹介します。
配当金の確定申告が必要になる(あるいは行った方が良い)主なケース
特定口座(源泉徴収あり)では手続きが完結しますが、以下のようなケースでは確定申告が必要となるか、あるいは税負担を軽減できる可能性があります。
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一般口座や特定口座(源泉徴収なし)で取引している場合: これらの口座では、配当金から税金が源泉徴収されません(※)。ご自身で配当所得を申告し、納税する必要があります。 ※大口株主等に該当しない限り、配当金を受け取る際に所得税・復興特別所得税(20.42%)が源泉徴収されるのが一般的です。しかし、例えば非上場株式の配当金や、特定のスキームによる配当金など、源泉徴収されないケースも存在します。また、特定口座(源泉徴収なし)を選択した場合、譲渡所得や配当所得に対する源泉徴収が行われないため、原則として確定申告が必要です。
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総合課税を選択して配当控除の適用を受けたい場合: 上場株式等の配当所得は、申告分離課税または総合課税を選択できます。所得税率が配当控除率よりも低い場合など、総合課税を選択して「配当控除」の適用を受けることで、税金が還付されたり、納める税金が少なくなったりする場合があります。総合課税を選択する場合は、確定申告が必須です。
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譲渡損失と配当所得を損益通算したい場合: 株式等の売却で損失(譲渡損失)が出ている場合に、同じ年内の配当所得と損益通算することで、配当所得にかかる税負担を軽減できます。損益通算を行うためには、確定申告(申告分離課税を選択)が必要です。
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複数の証券会社で取引しており、損益を通算したい場合: 複数の証券会社に特定口座(源泉徴収あり)を持っている場合、それぞれの口座内では納税が完結しますが、口座間での損益通算は自動で行われません。口座間の損益を通算して税負担を最適化したい場合は、確定申告が必要です。
ご自身の投資状況がこれらのケースに該当するかどうかをご確認ください。
手間を最小限にする!配当金の確定申告シンプル手順
確定申告の手続きは、国税庁のホームページにある「確定申告書等作成コーナー」を利用することで、自宅から比較的簡単に行うことができます。特にe-Tax(電子申告)を利用すれば、多くの手続きをオンラインで完結でき、手間を大幅に削減できます。
手順1:必要書類を準備する
まずは確定申告に必要な書類を揃えます。配当金に関する申告では、主に以下の書類が必要となります。
- 特定口座年間取引報告書: 証券会社から年末または年明けに発行される書類です。上場株式等の譲渡損益や配当金の受取額、源泉徴収税額などがまとめられています。確定申告の際に、この書類の内容を申告書に入力したり、提出したりします。
- 支払通知書(配当金計算書など): 保有する企業や投資法人から配当金が支払われる際に送られてくる書類です。特定口座年間取引報告書に記載されない配当金(例: 一般口座での受取分など)がある場合に参照します。
- マイナンバーカードまたは通知カード: 申告にはマイナンバーの記載が必要です。
- その他: 申告方法によっては、本人確認書類なども必要になる場合があります。
これらの書類を事前に準備しておくことで、手続きをスムーズに進めることができます。
手順2:国税庁「確定申告書等作成コーナー」にアクセスする
国税庁のウェブサイトには「確定申告書等作成コーナー」が用意されています。このコーナーを利用すると、画面の案内に従って金額等を入力するだけで、税額などが自動計算され、確定申告書を作成できます。
手順3:画面の案内に従って入力する
作成コーナーでは、以下の流れで入力を行います。
- 申告内容の選択: 所得税の申告を選びます。
- 提出方法の選択: e-Tax(マイナンバーカード方式またはID・パスワード方式)または書面提出を選びます。e-Taxが最も手間が少なく済みます。
- 所得の種類・入力:
- 「配当所得」の項目に進みます。
- 特定口座年間取引報告書を見ながら、証券会社ごと、種類ごとに配当所得に関する情報を入力します。年間取引報告書のデータを読み込む機能がある場合もあります。
- 一般口座などで受け取った配当金があれば、支払通知書を見ながら別途入力します。
- ここで、総合課税か申告分離課税かを選択します。配当控除の適用を受けたい場合は総合課税を選びます。
- 譲渡損失と配当所得の損益通算を行いたい場合は、譲渡所得の入力も行い、損益通算の適用を忘れずに選択します。
- 税額の計算・確認: 入力した内容に基づいて、納める税額や還付される税額が自動で計算されます。
- その他の所得や控除の入力(該当する場合): 配当所得以外に申告する所得がある場合や、適用を受けたい所得控除(医療費控除、社会保険料控除など)がある場合は、それぞれの項目で入力します。
- 住民税に関する事項の入力: 住民税の申告についても、所得税の申告書と併せて行うことができます。
手順4:申告書を提出する
全ての入力が終わったら、作成した申告書を提出します。
- e-Taxで提出する場合: 作成コーナーからそのまま電子的に提出できます。マイナンバーカードとICカードリーダー(または対応スマートフォン)、あるいは税務署で取得したID・パスワードが必要です。添付書類もイメージデータで送信できるものがあります。最も手間のかからない方法です。
- 書面で提出する場合: 作成した申告書を印刷し、必要書類を添付して税務署に郵送または持参します。
確定申告の手間をさらに減らすためのポイント
- e-Taxを積極的に活用する: e-Taxを利用すれば、税務署に行く必要がなく、インターネットを通じて24時間いつでも申告できます。計算も自動で行われるため、計算ミスを防ぎ、手間を大幅に削減できます。
- 年間取引報告書を大切に保管する: 証券会社から送付される年間取引報告書は、確定申告において最も重要な書類の一つです。失くさないように大切に保管してください。多くの証券会社では、電子交付サービスを利用すれば、ウェブサイトからいつでも確認・ダウンロードできます。
- 複数の証券会社を利用している場合: 各社から発行される年間取引報告書を全て揃える必要があります。集計が必要になる場合もありますが、前述の確定申告書等作成コーナーでは、複数の年間取引報告書の情報を入力できるようになっています。
- 特定口座(源泉徴収あり)を最大限に活用する: 手間を徹底的に省きたい場合は、特定口座(源泉徴収あり)を利用するのが最もシンプルです。ただし、総合課税による配当控除の適用や、譲渡損失との損益通算を優先したい場合は、確定申告を行う選択肢も検討する必要があります。ご自身の状況に応じて、どの方法が最も有利で手間がかからないかをご判断ください。
まとめ
配当金投資における確定申告は、適切な手続きを行えば、必要以上に手間をかけずに完了させることが可能です。特に国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を活用したe-Taxでの申告は、書類作成や提出の手間を大幅に削減できる有力な方法です。
ご自身の投資スタイルや税金に関する知識レベルに合わせて、特定口座(源泉徴収あり)で手続きを完結させるか、確定申告で税金面でのメリットを追求するかをご判断いただければと思います。いずれの方法を選択するにしても、正しい知識を持つことが、安心して配当金投資を続けるための鍵となります。